ベニツチカメムシは、雌が産卵後子供達に餌であるボロボロノキの実を給仕するという亜社会性行動を行う昆虫である。単独繁殖を行う昆虫の中ではこのような給仕行動はきわめて珍しい行動であり、これを行動生態学的に調べようとする本研究は、昆虫の社会性の進化を考える上で大きな意義を持っている。 1.1996年度の本研究の一つ目の目的は、佐賀県の調査場所に実験ケージを設け、環境条件を操作し雌の給仕行動の変化等を観察することであった。実験の結果、次のようなことが明らかとなった。 (1)雌親は産卵後約10日間巣内で抱卵し、フ化すると子に給仕行動を始めた。 (2)雌親は、餌の給仕頻度を子の発育段階に合わせており、餌条件がよくても高頻度にはしなかった。 (3)フ化から子の巣立ち開始までの期間の長さは、子一個体当り親が運んだ実の積算数に反比例した。 (4)子は雌親の給仕努力を査定している可能性が強く示唆された。 来年度は、実験の条件を改善し、より正確なデータを蓄積する。 2.本研究野2つ目の目的は、亜熱帯地方である沖縄のベニツチカメムシの調査を行い、佐賀地方での結果と比較することであった。沖縄での調査は5月と3月の2回行われた。残念ながらベニツチカメムシの集団を発見することはできなかったが、ゆいつの寄主植物のボロボロノキが、比較的豊富な山である「嘉津宇山」を見つけることができた。来年度はベニツチカメムシの生息場所を特定し、集中した調査ができると考えられる。今年度の調査から受ける印象では、温暖な沖縄地方ではあるが、他の樹種との競争のためボロボロノキの生育が限定され、ベニツチカメムシにとって非常に餌条件が厳しくなっている可能性がつよく考えられた。
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