申請者は平成8年度から9年度の期間、科学研究費基盤研究( C )として、研究課題名「ベニツチカメムシの育児における給餌行動の実験生態学的研究」(研究代表者:野間口真太郎)に研究経費総額210万円を受けた。これは植食性半翅目の中では非常に特異的なベニツチカメムシの給餌行動が、どのような行動生態学的機能を持っているかを明らかにすることを目的としている。平成9年度の研究は計画通り、佐賀市近郊の雑木林での野外飼育実験を通して進められた。また、分布の北限である佐賀地方と比較するために、温暖な沖縄地方の調査が行われた。その結果、以下のようなことが明らかとなった。 (1)採餌場所から巣の位置が遠いほど雌親の寿命が短くなる。 (2)雌親の胸幅・体重が多いほど寿命が長い。 (3)体重の重い雌は、落ち葉の豊富な寄主木から遠い場所に巣を作る。 (4)寿命の長い雌はたくさんの実を巣に供給する。 このことにより、親の給餌行動にともなうコストは、餌場と巣の距離が長くなるにつれて増大し、雌親の寿命を短縮させ、結局、総運搬果実数を減少させることがわかった。また、もともとからだが大きくて元気な雌は、このコストのもたらす負の影響が少ないことが判った。残念ながら、沖縄での調査では、有効なベニツチカメムシの個体群を発見できなかった。 そのため地域間の比較に関してはまだ結論を出せない状態である。平成8年度の研究成果は、論文にまとめられ「Journal of Insect Behavior」という昆虫行動の分野では最も権威のある海外の雑誌に投稿し受理され印刷中である。また、平成9年度の研究成果は、昨年8月にウィーンで行われた国際行動学会で発表し、昆虫の社会行動学の研究者の間で高い評価を得た。また、その内容については現在、海外の関連する別の学術雑誌に投稿中である。
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