本研究においては過去2年ないし3年間に渡り、沖縄県瀬底島周辺、鹿児島県口永良部島、愛媛県宇和海沿岸にて調査区を設け、対象魚類を個体識別し個体レベルでの種間関係の把握を行ってきた。その結果、藻食性の縄張りを有するスズメダイ類の雄が三重なわばりを持つこと、その3つのなわばりのうち、同種雄に対する最も大きな配偶なわばりが、優位種の雄による場所占拠を阻害し、ひいては劣位種の微生息場所での同所的共存をもたらすことが示唆された。また、主に口永良部島で調査された、魚食魚にはその餌摂餌技術にかなり個体変異が認められた。この変異は各個体の行動圏の違いなどには起因できず、個体特有のものと見られる。このような個体変異は熱帯この魚食魚での報告例と相似的なものと思われ、「捕食共生」の効果をもたらすものと考えられる。これらについては、今後も同じ調査区で研究を継続するつりもである。 また、宇和海で調べたベントス食魚の随伴関係では、随伴種の各個体が同程度に随伴するのではなく、大型個体が優先して随伴することがわかった。これは大型個体ほど種内で有利であり、大きな行動圏を持つためであることが明らかにされた。また大型個体ほど、大きなホストに随伴することもわかった。これらは、種内関係が種間関係に大きく影響することを示した研究と位置付けることができる。 本研究によって、個体レベルから種間関係を捉えることの有用性が示されたものと考えている。スズメダイ類の共存機構や魚食魚の捕食共生など今後継続すべき調査項目もあるが、それらの結果は珊瑚礁や熱帯湖の魚類群集を把握する場合、個体性を重視し、個体の関係から種間関係を捉えるという、「種間社会」のアプローチの有効性を支持するものとなる。
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