研究概要 |
カザリキュウセン(ベラ科魚類)の繁殖行動および性転換に関して,沖縄県瀬底島のサンゴ礁における野外調査ならびに水槽実験を実施し,これまでのデータと合わせて解析した。 大型で派手な体色(TP=Terminal Phase)をした雄はサンゴ礁の縁になわばりをもち,その内には複数の雌が棲息していた。日没前になるとTP雄はなわばり内の雌にさかんに求愛し,ペア産卵を連続して行った。雌は異なるTP雄のなわばりまで行って産卵することもあった。沖側のなわばりほど多くの雌が産卵に訪れる傾向があり,大きい雄ほど沖側になわばりをもっていた。一方,雌と同様の地味な体色(IP=Initial Phase)をした小型雄もごく少数存在し,TP雄と雌とのペア産卵時に飛び込んでいって放精するストリーキングや,TP雄の目を盗んで雌とペア産卵をしていた。 大型水槽内で複数の雌を飼育すると,大きい個体から順次性転換してTP雄になった。一方,IP雄を大型のTP雄と同居飼育しても,雌に性転換することはなく,成長とともにTPに体色変化した。また野外において個体識別した雌の性転換プロセスを追跡してみると,TPに体色変化するまでに,雌として産卵すると同時にIP雄としても繁殖する同時的雌雄同体の期間をもつ個体がいるらしいことがわかってきた。すなわち,体色の変化と機能的な性転換は必ずしも一致して起こるわけではなく,それぞれに影響する社会的要因が異なるものと推測された。 これらの成果の一部は,6th International Behavioral Ecology Congress (Canberra,Oct.1996,Abstract p.112)および第15回日本動物行動学会(1996年11月,講演要旨集p.51)において発表した。
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