沖縄県瀬底島のサンゴ礁において、ベラ科魚類2種(カザリキュウセン・ホンソメワケベラ)の性差と性転換に関する野外観察実験、および水槽飼育実験を実施した結果、つぎのことが明らかになった。 1)カザリキュウセンにおいては、体長、体色のみならず腹鰭・尾鰭の長さにも性差が存在していた。雄は産卵場所の確保をめぐってなわばり争いをするため、雄の繁殖成功には諸形質のうち体長の影響がもっとも大きかった。一方、雌は、雌と同体色の小型雄よりも派手な体色の大型雄を選ぶ傾向があった。 2)なわばりから雄を除去すると最大雌が性転換した。性転換プロセスにおいては、まず行動が変化し、ついで生殖腺、最後に体色が変化を完了した。 3)雄が消失すると、雌たちはまず体サイズを基準として配偶者を選ぼうとし、最大雌とのあいだで雌同士の産卵行動が見られ、未受精卵の放出が確認された。最大雌は雄の行動を完璧に行ったが、雄を戻すとすぐに雌として産卵した。 4)体色に性差のないホンソメワケベラにおいても、雄を除去するとすみやかに1位雌が雄役になって産卵行動(放卵)をした。これら1位雌の雄役産卵行動は、性転換完了後の配偶者を確保するために必要な行動だと考えられる。 5)性差の進化をもたらす配偶者選択は、性転換のプロセスにおいても重要な働きをしていることが明らかになった。配偶者選択基準と性転換メカニズムの関連について、さらに実験を継続する予定である。
|