長野県木崎湖に生息するカブトミジンコ(Daphnia galeate)の日周期鉛直移動パターンを、6月、7月及び9月の3回にわたって解析した。 体長と育房内の卵のサイズを測った結果、体長と卵のサイズには正の相関があり、大きな個体ほど大きな卵を持つ傾向のあることを見いだした。そして、体長と卵のサイズの関係を調べることによって、成長段階の異なる成体のグループを識別できることがわかった。これを用いて、最も顕著な日周期鉛直移動を行っていた7月の個体群について、異なった成長段階のグループの昼と夜における分布を調べた。 昼には、幼体は表層の水深6m層に分布し、小型の成体は8m層に、中型の成体が14m層に、そして大型の成体は26-27.5m層に分布していた。夜になると、幼体、小型及び中型の成体は分布を変えなかったが、大型の成体が水深14m層まで上昇していた。すなわち、カブトミジンコ個体は成長に伴って分布を変えていたのである。幼体は一日中6m層に分布し、成体になると8m層にまで降り、さらに成長して中型の成体になると14m層にまで降りる。それでもこれらの個体は日周期鉛直移動を行わず、一日中そこに分布していた。この中型の成体がさらに成長して大型になると、はじめて日周期鉛直移動を行い、14m層と26-27.5m層を行き来するようになった。これは大型の個体になるほど魚に食われやすくなるため、下層に逃げた結果と考えられる。下層に逃げた大型の成体は、しかしながら、体重に対する卵の体積が小さく、小型の成体よりも卵生産へのエネルギーの投資が小さかったことが示された。これは、深水層における低温や餌不足の環境に大型の個体がさらされたためと考えられる。これらの個体は、日周期鉛直移動によって被食回避という利益を得たが、それに付随した増殖測度の低下というコストを支払っていたのである。
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