研究概要 |
ミトリササゲ伸長域胚軸切片に導管潅流法により浸透ストレスをかけると、胚軸の伸長生長はいったん停止するか負に転ずるが、15分もすると徐々に回復を始める。しかし、このような対浸透ストレス適応回復はオーキシン存在下(10μMIAA)では顕著に現れるが、欠乏下では起こらなかった。オーキシン存在下の生長のストレス適応では、生長の回復に先立って必ず木部プロトンポンプの活性化に起因する木部膜の顕著な過分極が起こった。そこで、胚軸の生長と木部膜電位の間の関係を検討したところ、オーキシン欠乏状態では木部膜はほとんど脱分極に近い状態にあり、生長速度とに特別な関係は見られなかった。しかし、オーキシン存在下では少なからぬ個体で木部膜の過分極が見られ、生長速度との間に密接な相関関係がみられた。さらに、オーキシン存在下の浸透ストレスに対する生長の適応回復過で、生長回復速度と木部膜の過分極の量的な相関関係を調べてみた。すると、木部膜の最大過分極量と生長回復の相対速度の最大値との間にはr=0.806,p<0.01という密接な相関関係がみられ、膜の過分極はいつも生長回復に先行していることがわかった。 以上の事実は、胚時の生長調節に木部プロトンポンプが欠くべからざる役割を果たしており、その活性化にオーキシンが不可欠の存在であることを示している。浸透ストレスが最も影響するのは木部における水吸収阻害に基づく生長抑制である。水吸収の再開に木部プロトンポンプの活性化が不可欠であることは、カナル模型によるシミュレイション解析によりすでに予測しているところであるが(Katou & Furumoto 1986,Katou & Enomoto 1991)、今回の研究によりその予測が実験的にも妥当であることが明らかとなった。
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