淡水産の単子葉植物オオセキショウモ(Vallisneria gigantea)の葉肉細胞の原形質流動は、2面の側壁と2面の末端壁とに沿っておこる周回型である。原形質流動の軌道は、細胞膜直下、細胞外質中に敷設されているアクチン繊維束である。このアクチン繊維束の細胞内構築は、原形質分離により細胞壁と細胞膜とを剥離させたり、細胞外からプロテアーゼ処理を施すことにより著しく乱れる。そこで、動物細胞で知られる焦点接着と同様、細胞外因子と細胞膜因子との相互作用のもとにアクチン細胞骨格の細胞内構築が維持されているという仮説を提出し、その検証を行っている。焦点接着では、フィブロネクチンやヴィトロネクチンなどの細胞外基質蛋白質が、その分子内にあるRGDモチーフで、RGD受容体である細胞膜貫通蛋白質インテグリンと結合し、さらに数種の細胞内蛋白質を介してアクチン繊維と相互作用していると考えられている。一方高等植物や鞭毛虫類で、RGDモチーフと同等の機能を持つRYDモチーフを有する細胞外接着因子の存在が報告されている。そこで、RGDもしくはRYDモチーフを含むヘクサペプチドを合成し、葉肉細胞に投与したところ、原形質流動のパターンが大きく乱れた。この時、アクチン繊維束の配列も乱れていることを、蛍光ファロイジンによる染色で確認した。合成ペプチドは、細胞壁中のRGDもしくはRYDモチーフを持つ蛋白質因子と競争することによってアクチン繊維束の配列を乱したものと想定し、細胞壁因子の探索を試みた。合成ペプチドをヘモシアニンに架橋した抗原に対するウサギ抗血清を作製し、オオセキショウモ葉の粗抽出画分に対するウェスタン法を行ったところ、54および27kDaの2本のポリペプチドが認識された。さらに間接蛍光抗体法により、これらの抗原が細胞壁に分布していることを確認した。
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