淡水産の単子葉植物オオセキショウモ(Vallisneria gigantea)の葉肉細胞の原形質流動の軌道は、細胞膜直下、エクトプラズム中に敷設されているアクチン繊維束である。これまでの実験結果から、動物細胞の焦点接着と同様、細胞外因子と細胞膜因子との相互作用のもとにアクチン細胞骨格の細胞内構築が維持されているという仮説を提出し、その検証を行なっている。RGDもしくはRYDモチーフを含むヘクサペプチドの投与により、流動パターンは大きく乱れた。この時、アクチン繊維束の配列も乱れていることを、蛍光ファロイジンによる染色で確認した。RGDペプチドをヘモシアニンに架橋した抗原に対するウサギ抗血清を作製し、葉組織の粗抽出画分についてウェスタン法を行なったところ、54および27kDaの2本のポリペプチドが認識された。間接蛍光抗体法により、抗原が細胞壁に分布していることを確認した。これら細胞壁因子の受容体として働く細胞膜因子の探索を行なった。葉組織から水性2層配分法によって高純度の細胞膜画分を調整し、オクチルグルコシドで可溶化した後、RGDペプチドをリガンドとしたカラムにかけた。EDTA溶液による溶出画分には蛋白質成分が含まれていたが、その量は非常に少なく、SDS電気泳動によって特異的なバンドを検出するには至らなかった。また、細胞内因子についての情報を得るため、原形質分離に伴う原形質流動の軌道の乱れ方の様式を、同一細胞において連続観察した。原形質分離の後、原形質復帰が起こる際、平行な直線の束状の軌道が一旦ほぐれ、ジグザグ曲線が重なったような無秩序な構造となった。その後、軌道の構造は修復されるが、流動パターンは安定せず、束ごと変化する状態が続いた。以上より、アクチン繊維の束構造そのものを維持する因子、束全体を、細胞膜もしくは細胞壁に対して固定する因子などの関与が示唆された。
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