アルミニウム(A1)イオンは、酸性土壌における植物生育阻害の主要因子である。A1イオンの細胞毒性機構の一つに、鉄(Fe)イオン-依存性脂質過酸化反応の促進がある。タバコ培養細胞の系では、A1の脂質過酸化促進作用がA1による細胞死の主要因であり、さらにリン酸欠乏状態でA1耐性を示す。本年度は、リン酸欠乏細胞を用いて、A1耐性に関わる因子について以下の事を明らかにした。 1.フェノール性抗酸化物質によるA1毒性の抑制。 リン酸欠乏細胞には、フェニルプロパノイド化合物が蓄積していた。フェニルプロパノイド化合物を精製し、LC/MSおよびNMRで構造解析を行った結果、主成分はコーヒー酸の誘導体であった。この誘導体は、A1による脂質過酸化促進作用ならびに細胞死を抑制した。以上の結果より、フェニルプロパノイド化合物等の抗酸化物質は、A1の脂質過酸化促進作用を抑制してA1耐性をもたらす可能性が高い。 2.フェノール性抗酸化物質の合成系。 リン酸欠乏細胞では、フェニルプロパノイド合成系の鍵酵素であるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の比活性が著しく増加していた。しかし、PALの次に働く桂皮酸ヒドロキシラーゼの比活性は変わらなかった。以上の結果より、リン酸欠乏細胞におけるフェニルプロパノイド化合物の蓄積は、主としてPAL活性の増加によるものと思われる。 現在、PAL遺伝子の発現量の検討を行うとともに、PAL遺伝子プロモーター領域のクローニングを目指している。
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