Alイオンの細胞毒性機構の一つに、鉄(Fe)イオン-依存性脂質過酸化反応の促進がある。タバコ培養細胞はリン酸欠乏状態においてAlによる脂質過酸化促進反応を抑制し、強いAl耐性を示す。本研究では、細胞レベルにおけるAl障害に対する耐性機構を明らかにすることを目的とし、Al耐性を示すリン酸欠乏細胞およびタバコ培養細胞から分離したAl耐性細胞株ALT107株を用いAl耐性に関わる因子について検討し、以下の事を明らかにした。 1.フェノール性抗酸化物質によるAl毒性の抑制 リン酸欠乏細胞には、抗酸化活性を持つカロテノイドが蓄積していた。さらに、リン酸欠乏細胞およびALT107株にはフェニルプロパノイド化合物も蓄積していた。フェニルプロパノイド化合物を精製し、LC/MSおよびNMRで構造解析を行った結果、主成分はコーヒー酸の誘導体であった。この誘導体は、Alによる脂質過酸化促進作用ならびに細胞死を抑制した。以上の結果より、Al耐性を示すリン酸欠乏細胞とAl耐性株とに共通に蓄積がみられるフェニルプロパノイド化合物は、Alの脂質過酸化促進作用を抑制してAl耐性をもたらす可能性が高い。 2.フェノール性抗酸化物質の合成系 リン酸欠乏細胞およびALT107株では、フェニルプロパノイド合成系の鍵酵素であるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の比活性が著しく増加していた。さらに、PALの特異的阻害剤によってリン酸欠乏細胞ならびにAl耐性細胞株におけるフェニルプロパノイド化合物の蓄積が完全に阻害された。従って、リン酸欠乏細胞およびALT107株におけるフェニルプロパノイド化合物の蓄積は、主としてPAL活性の増加によるものと思われる。以上の研究結果より、PALの発現量の調節によって、Alによって促進される脂質過酸化を抑制できる可能性が考えられる。現在、PAL遺伝子の発現量の検討を行うとともに、PAL遺伝子プロモーター領域のクローニングを目指している。
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