原索動物門頭索類ナメクジウオは脊椎動物の祖先であり、神経・脊索の発生・分化、様々な生体調節機構の基礎を研究する上で、新たな知見を得る格好の材料である。本研究は、平成8年度の1年間で日本産ナメクジウオの提供、遺伝子レベルでの研究の基礎を作り、研究環境の整備を図った。以下に実績を順に示す。1)愛知県渥美半島沖(高松)および伊良湖水道沖(出山)の2カ所で高密度生息地を水深15-30mに発見した。定期的に雇船で調査・採集し、ほぼ周年での成体の遺伝子発現解析ができる材料を集めた。5月には海洋研究所の淡青丸で詳細な環境調査と1000匹以上の採集をした。2)分布はパッチ上で、底質の平均粒径は0.18-1.22mmであり、成熟個体な未成熟個体より質底選択性が低かった。性比はほぼ同数であった。成長曲線より0.8mmで着底し、3年の寿命と推定された。繁殖期は7月〜8月で、大潮付近で産卵すると推定された。東京大学三崎臨海実験所で5月から飼育していた数匹が産卵し、約1カ月の発生段階が追えた。3)繁殖期の成熟個体から頭部全体および、下垂体原基部分のみのcDNAライブラリーを作成した。4)胚の神経管形成の分化マーカーである内向き整流性K+チャネルの遺伝子を得るために、PCR法でプローブを作成し、プラークハイブリダイゼーション法によって、2つのクローンを得た。5)下垂体ホルモンの存在を調べるために円口類から哺乳類までの入手可能な限りの下垂体ホルモンと視床下部ホルモンの抗体20種類を使って免疫組織化学を行った。その結果、ヒトLH抗体のみが陽性反応を示した。6)ヒトLHのアミノ酸構造を中心に、他の生殖線刺激ホルモンのアミノ酸構造の保存性からPCR法を用いてプローブを得た。PCR産物のアミノ酸配列は下垂体糖タンパク質βサブユニットの系統樹で最も古く分岐したとされる魚類のGTHIに最も近かった。
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