研究概要 |
エクジソンは標的細胞でエクジソン受容体(EcR)と結合し、特定の遺伝子群の発現調節を行い、最終的に昆虫の脱皮と変態をひきおこす。そこで、変態時の組織分化がEcRを中心とした遺伝子発現のネットワークによって制御される分子機構を調べた。この目的のために、カイコのEcR(BmEcR)アイソフォームをRACE法で同定し、各発現をノーザンハイブリダイゼーション法で調べるとともに、BmEcRアイソフォームの各転写開始点と近傍の構造を決定し、転写因子との相互作用をゲルシフト法で解析した。その結果、BmEcRには2種類のアイソフォームA,B1があり、いずれも低濃度のエクジソンによって転写が誘導されることが確認された。カイコの変態時には前部絹糸腺以外のすべての組織でB1フォームが多量に発現しており、"幼虫組織ではB1、成虫化に向かう組織ではAが優勢"というショウジョウバエで示唆されたEcRの発現と組織の発生運命との関連は、カイコを含む鱗翅目昆虫では単純には成立しないことが確認された。BmEcRA,B1のそれぞれの転写開始点はゲノム上では20kb以上離れており、両者の転写開始点近傍の構造には有意な類似性はなかった。AとB1の転写開始点上流にはTATAboxは認められず、B1の転写にはinitiatorが使われている可能性が高い。また、ゲルシフト解析の結果、様々な組織において多数の転写因子が両アイソフォームの転写制御に関わっている可能性が示唆された。
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