ACh合成酵素、コリン・アセチル基転移酵素(ChAT)は、コリン作動性ニューロンの特異的なマーカーである。我々は以前、遺伝子工学的手法を用い、ラットのChATに対する抗血清を作製し、免疫組織化学を確立していたが、最近本抗血清は、パラフィン切片でもコリン作動性ニューロンを染めることを見い出し、脊椎・無脊権動物のコリン作動性ニューロンの系統発生学的・比較解剖学的研究の道が開かれた。そこで我々は、数多くの脊椎・無脊椎動物を用いて免疫組織化学的研究を進めてきたが、その種交叉性は期待された程高くはなく、当初の研究目的の達成は困難であった。一方この研究と並行し、ChATと同様コリン作動性ニューロンの特異的なマーカーと考えられる、軸索終末でAChをシナプス小胞に取り込む作用を持つ小胞AChトランスポーター(VAChT)と呼ばれる膜蛋白に対する抗血清を作成し、この抗血清も本研究に使用できるか否か検討した。先ずChATとVAChTに特異的なRNAプロ一ブおよび抗血清を用い、in situ hybridizationや免疫組織化学を行い、両者はラットの中枢神経系において遺伝子および蛋白レベルで、ほとんど全てのコリン作動性ニューロンで発現されることを明らかにした。さらにVAChTに対する抗血清も、パラフィン切片での染色が可能で、ChATに対する抗血清と同様サルやヒトのVAChTと免疫組織化学的に交叉し、広い種交叉性が期待し得ることを明らかにした。本報告書では、後者の研究が主体となっている。なお、サルの脳幹および脊髄前角の運動ニューロンに対するコリン作動性ニューロンの関与に関する論文も掲載した。
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