主として十脚類を用いた研究から、甲殻類の心臓は心臓内にある少数のニューロンからなる心臓神経節が拍動のペースメーカーとなる、神経原性心臓であることが知られている。しかしながら等脚類のフナムシの心臓ペースメーカー機構の個体発生過程における変化を調べた結果、心臓拍動が筋原性から神経原性に転換する事が判明した。胚期および幼体初期の心臓は心筋の自発活動で拍動する筋原性であるが、幼体中期から心臓神経節が自発活動を開始し、神経筋伝達を介して心筋の活動をより早い神経節の活動に引き込むことによって心臓拍動のペースメーカーとなる。これはこれまで甲穀類で知られている神経原性とは異なったタイプの神経原性心臓といえる。このフナムシの発生過程における心臓ペースメーカーの転移にともなって、神経性や体液性の心臓調節機構がどのように変化するのかを調べた。その結果、中枢神経系において1対の心臓抑制性ニューロンと2対の心臓促進性ニューロン、並びにそれらの心臓への経路を同定した。さらにそれらの心臓調節ニューロンのいずれもが心臓神経節および心筋の両者にシナプスして、心臓拍動を調節していること、またそれらのニューロンが成長に伴って心筋から心臓神経節を支配していくことを明らかにした。それらの成果を5つの論文にまとめて、専門誌に投稿し、掲載された。また心臓節の液性調節の因子と考えられるいくつかの生体アミン類について調べ、その作用が発生過程の心臓ペースメーカーの転移に伴って変化することを見出した。これらの結果についての論文を研究分担者と準備中である。
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