本科研費プロジェクトの目的は、昆虫の休眠に係わる光周受容色素の分子的同定でである。ここでは昆虫の脳に局在する光周受容色素の実体をロドプシン様物質と想定し、実験材料としてのカイコを用いて、分子生物学的手法(DNA分析からのアプローチ)でもって、一気にその構造と機能を解明しようとするものであった。予備実験としての実験形態的研究を含めて、期間内に以下のことを明らかにした。(1)休眠ホルモン分泌サイトが、側心体-アラタ体連合であることを見いだした。(2)休眠ホルモン合成神経分泌細胞を食道下神経球内で同定した。(3)無脊椎動物の視物質でよく保存されているアミノ酸配列に対応するオリゴヌクレオチドミクスチャーをプライマーとし、カイコ複眼のcDNAをテンプレートとしてPCRを行いオプシンの遺伝子断片を増幅し、そのシークエンスを決定した。その結果2種類のオプシン様のフラグメントがクローニングされた。(4)次にカイコ幼虫のcDNAをテンプレートにし、上で得られた複眼のオプシンのシークエンスをもとに設計したプライマーを用いてPCRを行って、オプシン様フラグメントをサブクローニングできた。これをもとに、3'-race法と5'-Race法によりほぼ全長のシークエンスを決定した。このシークエンスと他の動物のオプシン遺伝子のそれと比較検討した。
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