血液中の飲水調節因子が作用する飲水中枢の入口は、1)血液・脳関門がルーズで、血液中の因子が容易に中枢神経に到達すること、2)その入口のニューロンはAngiotensin II (ANG II)を始めとする血中飲水調節因子に反応する、という性質を持つはずである。しかしウナギの場合ANG IIが飲水を惹起することは知られているが、それ以外の飲水調節因子についてはほとんど分かっていない。そこでウナギの後主静脈に種々の薬物を注入し、飲水行動の変化を調べた。ANG II以外にHistamine (HA)・Serotonin (5-HT)・Carbachol (CCh)・Isoproterenol (Iso : β-adrenoceptor agonist)は飲水を惹起し、心房性ナトリウム利尿ペプチドは飲水を抑えた。これは哺乳類の結果とよく一致し、ウナギの飲水が哺乳類とよく似た機構で調節されていることを強く示唆する。上記以外にもProlactin・Substance P (SP)が飲水を惹起し、Vasotocin・Somatostatin・Phenylephrine (α_1-adrenoceptor agonist)・vasoactive intestinal peptide・Cholecysto kinin-8・Peptide-YY・Eel intestinal pentapeptideは飲水を抑えた。飲水誘導因子の内、HAと5-HTの効果は、CatoprilでANG IIの生成を抑えると完全に消失することから、ANG IIを介して現れていると考えられる。一方CChとSPはCaptopril存在下でも強く飲水を惹起した。従って飲水中枢には少なくともANG II・CCh・SPの独立した入力があると思われる。ANG IIの受容体を阻害することを試みたが、哺乳類で用いられているSaralasin・CV-11944・Losartanはいずれも無効で、ウナギのANG II受容体は哺乳類とはかなり異なっていることが考えられる。多くのペプチドが飲水を抑制したが、これらのペプチドの適当な阻害薬が見つからないので、飲水抑制の解析は進んでいない。 ウナギでは、まだ脳地図もできていない状況なので、ニッスル染色による脳の組織像をやっと得たところである。今後は血管をIndian inkで染め、Evans blueで脳室周囲器官を染める予定である。
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