海水ウナギは海水を飲み、それを腸から吸収することによって血液の恒常性を維持している。しかし、高濃度のNaClが腸に入ったのでは逆に腸から水が奪われ、脱水が進行する。海水ウナギの腸管内を等張マニトール液で潅流すると、一定速度で飲水するが、等張NaCl液を潅流すると飲水は抑えられる。この時飲水を抑えているのはCl^-で、Na^+は飲水促進した。腸にNa^+ないしCl^-が到達して、飲水行動が変化するまで20分以上を要するので、何らかのホルモン様物質が腸管より出ていると判断し、それを確かめるための実験系を確立した。後主静脈にカニューレを装着し、種々の物質を静脈に注入した。するとアンギオテンシンII(ANGII)、ヒスタミン(HA)、セロトニン(5-HT)、カルバコール、イソプロテレノール、プロラクチン、P物質によって飲水は促進され、心房性ナトリウム利尿ペプチド、バソトシン、ソマトスタチン、フェニレフリン、バソアクティブ腸管ペプチド、コレシストキニン、ペプチドYY、ウナギ腸管ペンタペプチド(EIPP)によっては抑えられた。これらの物質は血液中から効いているので、飲水中枢は血液・脳関門がルーズになっている場所だと判断し、エバンスブルーを血中に投与し、染色される脳部位を探した。延髄背側部、小脳腹側部、血管嚢の基部にあるニューロンがエバンスブルーで染まっていた。HAと5-HTの効果はANGIIを介することも見つけているので、蛍光標識したANGIIを脳切片に作用させると、延髄背側部と血管嚢の基部に、強く特異的に結合した。以上の結果から延髄背側部と血管嚢の基部にあるニューロンが飲水中枢の一部であると考えられる。今後はこれらのニューロンに微小電極を刺入し、上記の飲水調節因子を作用させたときの反応を調べ、飲水行動と結びつく反応を示すニューロンを同定する予定である。また以前に我々の研究室でウナギの腸管より単離したEIPPは飲水を抑えたが、腸管内をCl^-で潅流してもEIPPのピークをクロマトグラムの上で検出することはできなかった。
|