研究概要 |
奄美大島産エガイのヘモグロビン(Hb)異常2D鎖のイントロン・エキソン配置,及びδ鎖遺伝子について完全な塩基配列を決定することができた.これらの遺伝子に特異的に存在する2つのイントロン,プレコーディングイントロン(PI)及びブリッジイントロン(BI)の塩基配列を比較することによって,当初の目的の一つであった異常2ドメインHb鎖の生じたメカニズムの解明が達成された.要約すると,2D鎖を特徴づけるBIの5′領域は,δ鎖の3′非翻訳領域と非常に高い塩基配列の相同性を持っており,また,BIの3′領域はδ鎖のPIの3′領域と非常に高い相同性を持っていたのである.この結果,δ鎖が先ず遺伝子重複し,その後それらの遺伝子の不等交叉によって2D鎖が生じたのではないかと推定された.さらに,PIが他の軟体動物のHb遺伝子にも普遍的に存在し,Hbの多様化機構に大きな影響を与えたのではないかと類推し,深海底に棲む二枚貝シロウリガイのHbの遺伝子構造を調べた.その結果,今までHb遺伝子では前例のない位置(Aヘリックス)にイントロンが見つかり,このイントロンはPIが移動したものと思われた.奄美大島産エガイは,赤血球内に種類のHb,δ鎖から成るホモ2量体,α鎖とβ鎖から成る4量体,そしてδ鎖と2D鎖から成る多量体Hbを持っている.これらのHbを単離し,その安定性(自動酸化性)を測定することによって,Hb分子の生理特性を明らかにした.予想に反して,異常2D鎖を含む多量体Hbは最も安定で,最も不安定な2量体の自動酸化速度の5分の1であった.しかし,二量体の速度はヒトHbと同程度であり,エガイ属のHbは十分な安定性を保持していた.
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