研究概要 |
動物の生き残り戦略にとって皮膚の色や模様は極めて重要な役割をもつが、さらにこの色・模様がダイナミックに,あるいは微妙に,且つ,迅速に変化する,いわゆる“生理学的体色変化"と呼ばれる現象がみられる.この変化は皮膚中に存在する色素胞の運動性に依存しており,その運動性は複雑に制御されている.硬骨魚類ではことに複雑,かつ精妙に調節系が適応放散的に進化しており,詳細な解明が望めれている.まず,黒色素胞にエンドセリン類が受容体を介して色素凝集を生じ,この受容体は薬理学的には哺乳類のET_B受容体に類似するものであるとの結論を得た.エンドセリン類は光反射性の白色素胞では拡散を生じたが,この反応の際の受容体も哺乳類のET_Bに近い薬理学的性状を示した.運動性虹色素胞では反射光のスペクトルのピークが長い波長側に移動する反応を生じた.受容体の性質については今後の研究対象として残された.従来,色素胞の細胞内で作動するの2次メセンジャーにとして,環状AMP,Ca^<2+>,イノシトール三リン酸(IP_3)が知られているが,少なくともナマスなど,色素凝集を仲介するムスカリン型コリン作動性の受容体をもつ黒色素胞では環状GMPが関与している可能性を示す実験結果を得た.最近の研究結果からも推測される新しいタイプのメッセンジャーとして,1酸化窒素(NO)があり,このラディカルが局所情報伝達物質として黒色素胞の色素拡散を修飾することを示し得た.色素胞の場合,受容体機構としては,Gタンパク質の関与のもとに2次メッセンジャーの増減を生じ,細胞膜の電気現象と無関係に,関連たんぱく質のリン酸化・脱リン酸化過程を経て,顆粒運動が惹起される.しかし,イットウダイの赤色素胞,メダカの黄色素胞など,膜の脱分極による外液Ca^<2+>流入が顆粒凝集を生じる可能性がつよいことが明らかとなった.
|