本研究の目的は、(1)社会性カリバチの主要なグループの巣の形態・構造と表面微細構造を観察して、素材の加工や利用技術を比較する、(2)巣の素材の成分組成を分析し、グループ間で比較する、(3)以上の結果を多変量解析などで分析し、カリバチにおける巣材の利用・加工技術の進化を総合的に考察する、ことである。第一年目として、次の調査・研究を実施した。 (1)ハラボソバチ亜科の巣において、植物質などの基本素材を接着する上で必要な、ハチ自身が分泌する唾液の使用の有無を検証するため、現有の標本を用いて巣材の成分組成を調べた。従来、社会性カリバチの中で最も原始的な本グループにおいては確認されていなかった唾液成分の存在が、元素分析により初めて立証された(論文1)。 (2)国内のアシナガバチにおける、創設メスの巣建築への投資量を様々な条件下で比較するため、一定の条件下で採集した巣を観察し成分組成を定量した。その結果、巣材の接着に用いられる唾液成分(主に蛋白質)は、巣の全乾燥重量の50%以上を占め、巣を建設するに当たって外部に由来する蛋白成分を相当量使用していることが判明した。しかも、創設メスは、降雨量の多い環境下でより多く唾液を巣表面に塗布することが立証された。これは、創設メスが巣建築と給餌の両方に、いかに蛋白成分を分配するのかという、重要な問題を提起した(論文投稿中)。 (3)北海道や関東など、いくつかの地域でスズメバチ類のサンプルの追加採集を行うと共に、画像や数値データをコンピュータで整理した。 (4)巣材、特に接着剤である唾液成分の化学分析のため、山本が中心となりガスクロなどの機器を整備し、いくつかのサンプルについて予備的分析を行った。
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