褐藻綱を頂点として珪藻、黄緑色藻綱、ラフィド藻綱などを含む黄色植物は、緑色植物にも匹敵する光合成成物の巨大な系統群である。光合成を行わない近縁なグループに卵菌、サカゲツボカビ類、ラビリンチュラ類などの鞭毛菌と、ビコソエカ類という鞭毛虫のなかまがあり、ストラメノパイルという名でまとめられる。無色のストラメノパイルに紅藻に近縁な真核生物が共生することで植物化したのが黄色植物である。植物化以前のストラメノパイルを探索し系統解析を試みた。ビコソエカ類のCafeteriaの微細構造、特に鞭毛装置構造を詳細に解析した。その結果を黄色植物と比較した結果、明らかに相同な基底小体と鞭毛根を有することがわかった。とくに、黄色植物のオクロモナス目の藻類が食作用を行うときに使用する鞭毛根3と共通の鞭毛根の存在、および餌粒子の取り込みが行われる鞭毛根3にはさまれたダクト構造の存在は、系統的にかけはなれた二つの生物群をむすびつける構造であり注目される。この結果から、黄色植物にみられる食作用は葉緑体を獲得する以前の無色鞭毛虫類が保有していた構造であることが推定できる。Developaellaは同じく無色の鞭毛虫であるが、その所属がはっきりしない生物である。この生物の新種の分離培養に成功し、微細構造の精査を行った。その結果、Cafeteriaと同様に鞭毛根3とその間にはさまれたダクト構造を見いだし、鞭毛根3が関与する食作用が無色のストラメノパイルの間に広く存在することを確認した。さらに、この生物の鞭毛移行帯にみられるダブルへリックスと呼ばれる構造が卵菌類のそれに類似することに注目し、検討した結果、この生物はストラメノパイルのなかでは卵菌に最も近縁である可能性が高いことがわかった。他に数種の鞭毛虫について同様の解析を行い、18SrDNAによる分子系統解析を加えてストラメノパイルの初期進化の解明に寄与した。
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