本研究の目的は、昆虫類の形態形成を比較発生学的見地から検討することにより、本群のグラウンドプランの理解を深め、高次系統の再構築を試みることにあった。そこで、検討が不可欠な原始的昆虫主要高次分類群、すなわち、コムシ目とカゲロウ目を、比較の上で重要な発生形質に焦点を絞り厳密な検討を行い、得られたデータを基に、真正昆虫類におけるグランドプランの進化的変遷およびその高次系統を論究した。また、昆虫類および欠第二触角類における胚・胚膜間の機能分化に関する総括的な議論も行った。 1. コムシ目 (1) ナガコムシ亜目の口器の形成を詳細に検討し、ハサミコムシ亜目のそれに酷似するものの、同じく内顎類のトビムシ目のそれとは異なることが確認された。このことから、コムシ目の単系統性は強く指示されるものの、内顎類の単系統性の再検討の必要性がでてきた。 (2) 一次背器の形成にともない、羊膜が産生されることが明かとなり、羊膜という特化形質を基に、コムシ目十外顎類の単系統性が示され、このことも、やはり、内顎類のステータスに疑問を投げかけるものである。 2. カゲロウ目 (1) 今まで断片的であったカゲロウ目の胚発生過程の概略を明らかにし、昆虫類の基本的体節制を論じた。特筆される点は、今まで昆虫では同定されなかった尾節を確定、第11腹節の一部とされてきた尾糸を尾節と同定したことである。 (2) 真正昆虫の基本型と考えられるカゲロウ目の成熟分裂〜受精にいたる発生過程を、準薄樹脂連続切片ならびに間欠微速度ビデオ観察装置により観察し、受精には雄性前核の特異な行動が伴うことを明らかにし、このような現象が昆虫類に普遍的である可能性を示唆した。 3. 昆虫類および欠触角動物類における胚・胚膜間の機能分化 本研究課題で得られた知見も含め、昆虫類に焦点を当て、欠触角動物類の進化にともなう胚と胚膜の機能分化の変遷を論じた。すなわち、これらの動物群の進化において、胚と胚膜間の機能分化が進み、これにともない、各動物群で特徴的な胚膜構造が獲得されてきたことを明らかにした。
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