タンポポ属には有性生殖を行う2倍体とともに、3倍体〜10倍体におよぶ無融合生殖を行う倍数体があり、無融合生殖複合体を形成する代表的な植物の一つである。筆者は無融合生殖を行う倍数体が花粉親として2倍体との間で有性生殖を行った結果、より高次の倍数体を生み出すという仮説を提案している。実際の無融合生殖複合体がこの機構により形成されたかどうかを検証するため、本研究では、5倍体種シロバナタンポポを主要な研究対象としてその起源の解明をめざした。シロバナタンポポの花粉親となった3倍体あるいは4倍体の条件は、次の2点である。(1)シロバナタンポポが保有する遺伝子のうち、2倍体種が持たないmdh-d、skdh-cを持つこと、(2)シロバナタンポポに無い遺伝子は持たないこと。そこで、本研究では、シロバナタンポポの30集団、東アジア産2倍体3種13集団、3倍体2種5集団、4倍体6種20集団について、13酵素16遺伝子座のアイソザイムの変異を調べ、次のような結果が得られた。(1)今回調べたシロバナタンポポ300個体は全て同じアイソザイム表現型を示し、1クローンであった。(2)mdh-dとskdh-cを持つ点で花粉親の候補となりうる種は、キビシロタンポポとケイリンシロタンポポのみである。(3)キビシロタンポポはシロバナタンポポに無い6pgd2-fをもち、ケイリンシロタンポポのみが、花粉親の条件を満たすことが明らかにされた。(4)ケイリンシロタンポポとシロバナタンポポを比較した結果、ケイリンシロタンポポに無いpgi-dは2倍体種から由来したと推定され、この遺伝子を持つカンサイタンポポが種子親と結論された。(5)今回改めて九州の白花のタンポポを詳細に調べ、従来は朝鮮の固有種と考えられていたケイリンシロタンポポが北九州に広範に分布することを明らかにした。それゆえ、シロバナタンポポの起源の地は北九州であると推定される。
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