研究概要 |
ヒトツバタゴは日本ではわずかに東濃地方(55km×30km:200本程度)および対馬最北端(1km×1km:1000本程度)に分布しているだけの典型的な遺存植物である。また,雄株と両性花株とがあり,繁殖生態学的にも非常に興味深い。このような樹種において極端に隔離され,かつ狭い地域に限定されていることからどのような遺伝的な偏りが生じているか,集団内,集団間の変異はどのようになっているのか,について詳細に解析することはたいへん意義深いが残念ながらほとんど研究がなされてきていない。 申請者はそこですでに収集されていた材料に加え,今回の補助金により詳細に対馬において現地調査を行い,集団遺伝学的な解析を行った。結果は現在論文に纏め,投稿中である。結果は以下の通りである。対馬と東濃の集団の間ではかなりの分化が生じている。対馬と東濃は前者が極端に小さな地域に存在しているにもかかわらず個体数が比較的には多いこと,後者が比較的には広いが個体数が少ないこと,から比較は簡単ではないが,両地域集団内での分化程度はほぼ同じであること。 遺伝的多様性はまた,遺伝子交流の結果でもある。詳細なこの交流の過程を復元しなければ多様性の起源を明らかにしたことにはならない。そこでヒトツバタゴを直接に研究対象として取り上げるのはさまざまな困難が予測されるため,母性遺伝と父性遺伝をミトコンドリア,葉緑体でそれぞれトレース出来る唯一の材料であるマツ属を対象として研究を行い,論文として纏め,発表した。 また,固有遺存植物を若干広義に捉え,日本産の高山植物44種における種内の遺伝的多様性を網羅的に検証し,論文として纏め,発表した。 次年度はこれらの成果をもとに,ヒトツバタゴにおけるアロザイム解析から得られた個体をさらにアリル間の系統解析を行う。
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