研究概要 |
ヒコナミザトウムシNelima nigricoxa(クモガタ綱:ザトウムシ目)の核型分化と交雑帯の性質を検討するため,1996年は(1)本種とその近縁種エゾナミザトウムシN.sp.,オオナミザトウムシN.genufuscaを含むナミザトウムシ種群3種の核型分析と交雑帯の位置の決定,(2)ヒコナミ交雑帯中の核型の異なる個体どうしの交配実験,(3)mtDNAとアイソザイム分析用の材料の採集,を行った。 核型分析(1)では,A)ヒコナミは3n=16-22の幅で変異し,合計8つの核型が区別されること;B)北陸〜北近畿にかけての地域にはRobertson型変異で生じたと考えられる2n=18と2n=16の集団があること;C)この地域の2n=18の核型は,鳥取県大山東部に従来から知られている2n=18aの核型と同じであり,これより,2n=16の核型は派生形質であることが示唆されること;D)オオナミは2n=18-22(例外的に2n=24)の幅で分化しており,うち22Ha(22箱根型)と22To(22東海型)は北陸地方で交雑帯を形成していること;E)近畿地方北部にみられる2n=20と2n=18の核型は互いにロバートソン型転座で生じていることなどが判明した。以上の結果より,本種群の祖先的染色体数は2n=22であり,ヒコナミとオオナミでは一部の地域で染色体数の減少が順次進行したと推測される。交配実験(2)は,残念ながら,飼育下で雌個体の卵巣が十分に発達せず産卵が順調になされなかったことにより,当初の目的が達成できなかった。交雑帯の分析に使う分子マーカー探索のための材料の採集(3)は予定どおりおこない,今後予備実験にとりかかる予定である。
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