研究概要 |
島根県東部に位置する汽水域,宍道湖・中海の重要な基礎生産者である微小浮遊珪藻類の種類組成とその季節変化を明らかにするために,宍道湖3地点,中海4地点において1996年4月より1997年3月まで,毎月定期調査を行い,光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を用いてその分類学的研究を進めてきた.その結果,浮遊珪藻類として中心目8属17種,羽状目6属8種,計14属25種類を確認した.優占種となったのは中心目Cyclotella類および羽状目Neodelphineis pelagica Takanoであった.しかし,Cyclotella属は優占するにもかかわらず,種の同定に至らない種類が4種類出現したため,1997年度はこれまでの試料に基づき,特にCyclotella属に焦点をあて,その分類学的検討を実施した.本属の種はいずれも10μm以下であり,最も同定が困難なグループである. 1997年度及び1998年度の研究によって,Cyclotella属の種として,本水系からはC.atomus var.gracils,C.choctawhatcheeana,C.meneghiniana,C.stelligera,C.striata,Cyclotella sp.2,Cyclotella sp.3,Cyclotella sp.4の8種類が出現することが判明した. Cyclotella choctawhatcheeanaは1990年に新種記載された種であり,本研究で初めて本水系に出現することが確認された.Cyclotella atomus var.gracilisは昨年度まではCyclotella sp.1と呼称した種類である.本種は1993年に新種記載された種であり,本研究で初めて本水系にも出現することが確認された.以上2種類は本水系の優占種であり,この研究によって初めて優占種の種名を同定することができた.しかし,同様に本水系で優占するCyclotella sp.2,Cyclotella sp.3,Cyclotella sp.4については,近縁種はあるものの,これまでの文献調査では該当種がなく,新種の可能性を含めて現在詳細に分類学的検討を進めている.
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