研究概要 |
コケ植物の蘚類マゴケ亜綱のコスギゴケ,苔類ウロコゴケ亜網のコマチゴケ,苔類ゼニゴケ亜網のジャゴケ,ヒメジャゴケの減数分裂期における,核と色素体および微小管の挙動を間接免疫抗体法を用いて共焦点レーザー顕微鏡,光学顕微鏡で観察した.コスギゴケの減数分裂は,胞子母細胞中に色素体が一つある状態で行われる単色素体性の細胞分裂であり,これはツノゴケ類や羊歯植物のヒカゲノカズラ類でも観察されている.ところが苔類の減数分裂はそれらとは異なり,多くの色素体がある状態で行われる.ウロコゴケ亜綱では蘚類と同様,細胞質が核分裂に先立って4葉にくびれることが知られているが,本研究ではじめて,ウロコゴケ類でも四極微小管系が発達することを発見した.ゼニゴケ亜綱(ジャゴケ,ヒメジャゴケ)では四極微小管系や細胞質のくびれは観察できなかったことから,核の分裂に先立って細胞質の分裂面を決定する機構が発達していないのではないかと考察した.最近,18SrRNA遺伝子の全塩基配列に基づいたコケ植物の分岐図(Capesius 1995)が示され,苔類のゼニゴケ亜綱とウロコゴケ亜綱はまったく異なる系統群にとされた.本研究で試みた減数分裂様式の比較形態学的研究の結果は,提案されている分子系統樹を示持するものであった. 減数分裂に先立つ胞子母細胞形成までの胞原組織の発達についても,蘚類のスギゴケ科,シッポゴケ科,サヤゴケ科等のこけについて,超薄切片を作成して,組織学的研究を行った.コケ植物では,胞原組織の発達段階を顕微鏡写真で記録した例がなく,本研究で蘚類チジミバコブゴケで,そのデータを得た.それらの胞子母細胞の形態の観察も行い,現在,観察結果をとりまとめ中である.
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