研究概要 |
本年度は本研究のとりまとめ年度にあたり,これまでに収集したデータと本年度実施した補足観察からのデータもとに論文執筆にあたった.補足観察として,タイ類ウロコゴケ亜綱でありながら,ゼニゴケ亜綱と類似の葉状体をもつマキノゴケ科とクモノスゴケ科にみられる減数分裂機構を明らかにした.その結果,いずれも胞子母細胞は明瞭に4葉化し,複数の色素体をもちながら減数分裂が進行することをつきとめた.この結果はこれまでの分類学的位置づけを支持するものであった.従って当初考えた減数分裂の様式がコケ植物の分類とくに大系統のレベルでは系統と強く関連する形態であるという確信を深めることができた. この研究はさらに細胞学的,形態学的にも興味ある問題に展開しつつある.それは,コケ植物の細胞分裂では核の分裂に先立って色素体が分裂し細胞の分裂装置の発達過程と色素体の分裂には密接な関係がある.その色素体が単一であるか複数であるかは系統間で異なっている.細胞の分裂装置の微小管重合中心として働く中心体の存在は藻類では普通の形態であるが,コケ植物では精子形成時にしか知られていない.これは藻類からの進化の過程で中心体の喪失と色素体の複数化と何らかの関連があるものと考えられ,微小管重合中心の構成物質の1つであるγ-チューブリンを追跡することでこの進化過程を追うことができる. さらに,胞子体での胞子形成過程の研究で,コケ植物でははじめての発見になるアメーバ型じゅうたん組織の存在を明らかにした.これは従来は被子植物のキク科に知られるものであった.本年度に4編の論文を公表した.
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