日本列島におけるイノデ属(Polystichum)の種分化における同質倍数体と異質倍数体の役割を明らかにするため、本年度は以下の研究を行った。 1 これまでに日本産のイノデ属の約7割の染色体数が明らかにされているが、体細胞染色体の報告はほとんど無く、また観察に用いられた個体数は1〜数個体で産地も少ないため、多くの個体観察を行った。イノデ、アイアスカイノデ、カタイノデ、サイゴクイノデ、イノデモドキ、ツヤナシイノデは、5〜20個体(2〜10集団)について体細胞染色体を明らかにし、各種数個体ずつ減数分裂も観察した。その結果いずれも2n=164の四倍体で、減数分裂では82個の二価染色体を形成し、有性生殖をすることを確認した。これは、これまでの結果と一致したが、体細胞染色体数は初めて明らかにされたものである。また、推定雑種のドウリョウイノデ、ハタジュクイノデについては、初めて2n=164の四倍体であることが分かった。 2 各種のアロザイム多型を計約1000個体について分析したところ、イノデ、アイアスカイノデ、カタイノデ、サイゴクイノデ、イノデモドキは典型的な異質倍数体的バンドパターンを示していた。これらの種間の推定雑種は、両親種からの遺伝子型を半分ずつ引き継ぎ、雑種であることが証明された。ツヤナシイノデについては、アロザイムに多型が見られ、同質倍数体起源であることが推察された。
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