日本列島におけるイノデ属(Polystichum)の種分化パターンを明らかにするため、染色体数、減数分裂、染色体のGISH法、アロザイム多型を用いた解析を行った。イノデ、アイアスカイノデ、カタイノデ、サイゴクイノデ、イノデモドキ、ツヤナシイノデについて体細胞染色体数は2n=164の四倍で減数分裂では82個の二価染色体を形成していた。また、キュウシュウイノデ、コモチイノデ、ナンピイノデ、アスカイノデは2n=82の二倍体だった。推定雑種のドウリョウイノデ、ハタジュクイノデ、ツヤナシイノデモドキ、タカオイノデ、ハコネイノデ、キヨズミイノデは、2n=164の四倍体で減数分裂異常であることが分かった。各種のアロザイム多型を分析したところ、イノデ、アイアスカイノデ、カタイノデ、サイゴクイノデ、イノデモドキ、ツヤナシイノデは典型的な異質倍数体的バンドパターンを示していた。前葉体でのアロザイムの分離では、ヘテロな状態が分離しないfixed heterozygosityの状態であることがわかり、異質倍数体起源であることが確かめられた。推定雑種は、推定両親種からの遺伝子型を半分ずつ引き継ぎ、雑種であることが証明された。アロザイムの対立遺伝子頻度をもとに種間の比較をしたところ、四倍体同士は遺伝的に近い関係にあるが、二倍体は四倍体とは遺伝的に離れていて、西南日本の四倍体種の起源には、今回用いた二倍体種の関与は低いことが判明した。二倍体と四倍体のGISHでもゲノムの類縁性は低く、アロザイムの結果と一致した。以上より、日本のイノデ属の種分化には異質倍数性が重要な要素として関与しているが、親となる二倍体種は今回の調査種でないことが明確になった。
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