アカバナ科における間期核染色体の動態と分類形質としての評価を行うために、間期核染色体の観察とともにDNA量の測定を9属25種で行った。アカバナ科の間期核はTanaka et al.(1988)によれば、4型:単純染色中央粒型・前染色体型・複雑染色中央粒型・分散型に類型化されている。今回のDNA量の測定の結果、分散型を除く3型のDNA量値は0.52pg〜3.58pgの間に連続的に分布し、DNA量からは、これら3型を類型化することはできないことが分かった。しかし、分散型を呈する種のDNA量値は、7.0pg以上であり、上述の3型のDNA量値との間にギャップがあることが分かった。その結果間期核染色体のタイプ分けは、DNA量からは2型に大別することが妥当であることが分かった。 測定されたDNA量をこれまで明らかにされている分子系統図や形態からの系統図にこの値をプロットして、DNA量からのアカバナ科の系統を検討した。DNA量値は、アカバナ科のすべての属の姉妹群とされているLudwigia属とEpilobium属で低く(1.5pg以下)、Lopezia属では高く(7.0pg以上)、残りの属はこれらの中間値(2.0pg〜3.5pg)であった。この結果から、アカバナ科は原始形質として低いDNA量値を持ち、DNA量が増加することによって、各属が分化していったことが分かった。しかしながら、属内で種分化が行われる際は、逆に、DNA量が減少して行く傾向があることが分かった(Clarkia属及びEpilobium属)。ただし、Epilobium属の2節が分化する際には、再びDNA量が増加していることが分かった。このように、アカバナ科の属分化は、基本的にはDNA量の増加によって行われていったが、属内の分化は逆に、DNA量の減少によって行われたと示唆された。
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