ヒマラヤ要素と呼ばれる植物の多くが、チベットから中国西南部、ビルマにも分布し、これらの地域にはヒマラヤ要素種との類縁性が高い特産種も存在することが知られている。ツリフネソウ属のヒマラヤ要素の特性を明らかにするため、中国西南部に分布するツリフネソウ属植物の形態学的比較研究と細胞遺伝学的な多様性の解析を行った。得られた結果を、ネパール・ヒマラヤにおける形態学的ならびに細胞遺伝学的多様性と比較した。また、比較検討のため、日本産ツリフネソウ属植物の解析を行なった。その結果は以下の3点に要約しえる。 1 ツリフネソウ属植物について、外部形態を解析した結果、特異な形態の距をもつ種があることが判明した。この種は、外側でなく内側に向かってあるという点で、ツリフネソウ属の中でも、非常に特異な種であり、このような距の存在は、送粉昆虫との関係において重要な意味をもつと考えられた。タイプ標本と比較検討した結果、この種は、Impatiens nubigena W.W.Sm.であることが判明した。Impatiens nubigenaは、分布が雲南省西北部と四川省西南部にのみ限られ標高4000m付近に生育し、ヒマラヤ要素植物であることが判明した。 2 中国西南部においては、ネ-パル・ヒマラヤにおけるよりも形態的多様性と細胞遺伝学的な多様性が高いことが判明した。これは、中国西南部には、ネパール・ヒマラヤと同様なヒマラヤ要素植物が生育するだけでなく、ネパール・ヒマラヤではこれまでは知られていないインドシナ要素植物も分布を広げていることによると考えられた。中国西南部のツリフネソウ属植物については、5新種が判明したので、それらの記載・発表を行った。 3 日本産ハガクレツリフネソウの形態的多様性についての検討を行なった。花の外部形態を解析した結果、複数の地点で同じ傾向の変異性がみとめられ、外部形態の多様性について興味ある現象が明らかになった。
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