1.チョウチンゴケ科のムツデチョウチンゴケのポリセティを調べる目的で、野外調査を中部日本において8月と10月に行った。本種にポリセティが見られることは従来より知られていたが単に雌花序あたりの胞子体の数を記述しただけであり、またその内容も報告により異なっていた。今回の調査では雌花序あたりの胞子体の数に加え、その割合、各植物体のサイズ等を調べた。その結果、雌花序あたりの胞子体の数は1〜8、一番多いものは2〜4個の胞子体をつけるもので、また胞子体の数と植物体の大きさには関係が見られなかった。また、長野県と岐阜県という地理的に離れた集団で行った調査でもほぼ同様の結果が得られた。合わせて、本種の生きた資料を研究室に持ち帰り、生殖器官及び胞子体形成の過程を観察するため培養を行った。 2.国立科学博物館標本庫所蔵の中国産の資料に基づき、蘚類スギゴケ科1種、ハリガネゴケ科1種、チョウチンゴケ科2種の計4種5サンプルについてポリセティの観察を行った。スギゴケ科ではタチゴケ属を除いてポリセティはほとんど知られていなかったが、ニワスギゴケ属の一種Pogonatum fastigiatumでポリセティが観察された。 3.日本産の蘚類について文献によるポリセティの調査を行った。これまでポリセティが報告されている種類は10目14科約40種であり、そのうち9目13科がマゴケ亜綱に含まれ、さらにそのうちの6目10科が植物体が直立し、生殖器官を茎の頂端に形成するグループに属するものであった。今後は実際の標本による調査を行う予定である。
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