成人男女の被験者において歩行実験を行ない、歩行動作、床反力、足底圧分布を分析した。踵接地時から足の指を除いた足底全体の着床時までの時間は、通常歩行の場合男女間に有意な差はなく、両者において0.04秒(SD0.012)であった。歩行速度の遅速に応じてこの時間にも長短が観察されたが、直線的な相関とはならず、とくに遅い歩行速度において、この時間はあまり長くならなかった。これは、踵部分が球状をしているため、体重の支持には不安定で、なるべく早く足底全体を着床させて姿勢を安定化させなくてはならないためと考えられる。しかし乳幼児のようなはじめから足底全体で接地した歩行では、接地の衝撃が直接足関節から脛骨に伝わってしまう。踵接地から爪先離地までの着力点の軌跡をみると、踵の中心から第2、第3中足骨骨頭(遠位端)間まで直線的に速く進み、ここで減速するとともに母指球方向に急転し、最終的には母指球付近から前方に抜ける。接地期における足底圧の極大値の分布をみると、踵、第2、第3中足骨骨頭付近、母指球付近にある。着力点軌跡と足底圧分布の観察から、歩行中に指を除いた足の構造は比較的リジッドであることがわかる。また、母指球付近で高い足底圧が観察され、着力点軌跡もこの付近を通るということは、一般的な歩行では足は進行方向に対して一定の角度で(10〜30度)で開足している(足の先端が外を向いている)ことが原因で、着地の最後の相で母指が足の蹴りだしの中心的な役割を果たすからである。このため、ヒトの母指の骨格は他の指に比べて著しく頑丈に大きくなったと考えられ、直立静止姿勢がその原因ではない。ヒトと他の霊長類の中足骨の比較においてもヒトのものは断面が比較的丸く、曲げよりもむしろ圧縮に対して強い構造をしており、足底腱膜の歩行における効能が明らかとなった。以上のことから、ヒトの足構造は、平らな地上歩行に適応した構造といえよう。
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