本研究は、ヒトの足構造の直立二足歩行に対する適応度に関して、ヒトの歩行実験における床半力着力点軌跡および足底圧分布の状況の分析と、ヒトとヒトに近い霊長類であるチンパンジーとオランウータンの中足骨の中央断面形状の材料力学的な分析から考察した。その概要を以下に記す。 1.床半力着力点軌跡は、踵接地後第2または第3中足骨骨頭付近まで直線的に素早く動き、ここで動きが鈍くなるとともに第1指方向へ向きを変え、最終的につま先離地とともに第1指または第2指の先端あるいは両者の間から前方へぬける。この間、足の「あおり」運動はみられない。 2.足底圧分布のピークは、着力点軌跡の通る、踵、第2または第3中足骨骨頭付近、そして第1指の先端付近にみられる。上記の着力点軌跡の結果と合わせ、ヒトでは歩行時の足の蹴り出しの際に、第1指、第1中足骨に大きな力が加わることがあきらかになった。直立静止姿勢ではこれらにはあまり大きな付加がかからないことから、ヒトの第1指が大きいのは、歩行の際のこの力に耐えるために適応した結果だといえよう。 3.中足骨のCT断面に関して、ヒトの場合、ここで調べた他の霊長類に比べて緻密質の肉厚が著しく低いということが判明した。しかし、力学的な強度特性に関しては、ヒトの第1指がもっとも大きく、これは太さが太いということがその理由である。ヒトの他の4本の中足骨に関して、強度の点では他の霊長類の対応する骨より劣っているが、極端な低下はみられなかった。このことから、ヒトの足骨は、肉厚を薄くしても強度を保ちながら軽量化するといった点で、直立二足歩行に適応してかなり進化しているといえよう。 中足骨のCT断面形状から、ヒトと他の霊長類に関して、中足骨には大きな曲げ応力が生じることはあまりなく、靭帯、踵等によって、軸方向の圧縮力に変換されていることが示唆された。
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