1997年度は前年度に引き続いて、鹿児島県屋久島と宮城県金華山の野生ニホンザルについて、雌の繁殖特性を分析した。その結果、(1)屋久島の出産率が、金華山より低い。(2)屋久島では雌の幼児死亡率が高いなど、いわゆる″harassed daughter″仮説的な傾向が認められるが、金華山では認められない。これらの結果から、(3)屋久島では雌間の競争(female competition)が激しいことが示唆される。また、(4)両個体群をまとめると、狩猟圧のない環境では、ニホンザルの群れサイズ(もしくは成体雌の数)と出産率は一山型のカーブを描き、Wrangham(1980)の仮説に合致する、などの結果を得た。これらの成果は、2編の学術論文にまとめ、現在印刷中である。同時に、嵐山で長期間にわたって蓄積されたニホンザルの交尾資料を分析して、これまでの研究報告を参照しながら、ニホンザルの雌雄の繁殖戦略について分析を進めている。また、屋久島西部海岸の野生ニホンザルの垂直分布について、1994年以来の継続資料をもとに、群れと個体群密度、および糞分析の結果などをまとめ、論文1編を投稿中である。また、他の霊長類(チンパンジー、ワオキツネザル等)について、同様の繁殖資料を分析して、雌間の競争についての解析を進めている。さらに、霊長類の雌間、雄間の競争について考察して、ホミニゼーション(ヒトの進化)における競争、争い、暴力の進化について論文をまとめて、現在、印刷中である。
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