1998年度は1996、97年度に引き続いて、鹿児島県屋久島と宮城県金華山の野生ニホンザルを主な研究対象として、雌の繁殖特性・繁殖戦略を分析した。その結果を先行研究と比較して、(1)ニホンザルでは雌雄ともに順位と交尾/繁殖成功が相関しない例が多い。(2)とくに、雄は群れでの滞在期間が長期化すると、交尾成功が減少する傾向が著しい。(3)雌雄はより疎遠な異性を繁殖のパトナーに選ぶ傾向があるが、(4)とくに雌による選択(female mate prefeence)はより決定的な要因であると考えられる。(5)雌間での競争(fema1e competition)はかなり激しいが、その競争が順位と成功の相関に直接反映することは少ない。などの傾向があきらかになった。 これらの結果を論文1編にまとめて、学術雑誌に発表した。 また、1993年から97年にかけて屋久島でおこなってきたヤクシマザルの野生個体群の分布調査について、海岸林での分布と、ヤクスギ林帯での分布について、それぞれ学術報告2編にまとめて、学術雑誌に発表した。さらにヤクシマザルの垂直分布とそれに及ぼす人間の経済活動の影響について分析を進めて、現在、論文1編を作成中である。このほか、ワオキツネザルの個体群資料について、雌の競争の観点から、成体雌の数と出産率・幼児死亡率の関係などを分析しているが、同じ母系的社会構造を示すニホンザルとかなり異なる傾向が認められた。この結果は、霊長類の雌の繁殖戦略の進化に興味深い資料を提供できると期待できる。
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