鹿児島県屋久島と宮城県金華山の野生ニホンザルを研究対象に、(1)群れサイズ(あるいはおとな雌の数)が雌の出産率、幼児死亡率に影響するかどうかを分析した。その結果、二つの個体群では対照的な傾向を示したが、これは両者の個体群密度が異なるためで、基本的にはWrangham(1980)が提出した母系的社会構造での繁殖特性を示すことを明らかにして、学術雑誌に論文として掲載した。(2)二つの個体群の繁殖特性を分析して、餌付け群との違いを明確にするとともに、どちらの地域でも雌の順位と繁殖成功に明瞭な相関が認められないことを明らかにして、雌の繁殖戦略などとの関連について、学術雑誌に論文として掲載した。(3)二つの個体群に加えて、餌付け群などでの資料も加えて、ニホンザルの雌雄の順位と繁殖成功の相関についてこれまでに得られた資料を分析して、雌雄ともに順位と繁殖成功が相関しない例が多いことを明らかにするとともにその原因について考察を加えて、学術雑誌に論文として掲載した。このほか、屋久島の野生個体群を対象に、(4)海岸域での群の分布、個体群密度などを分析した。また、(5)海岸林から山頂部までの垂直分布を分析して、植生帯によって群/個体群密度ともに変動することを明らかにした。これらの成果を学術雑誌に論文として掲載した。さらに、ワオキツネザルの母系集団での群サイズと出産率、幼児死亡率の相関について分析を続けており、論文として準備中である。
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