研究概要 |
目的:ヒトの直立2足歩行姿勢に伴って、頭部を中立位に保つためには、背側ばかりでなく、腹側頸筋の働きが重要になり、両者の緊張のバランスが必要となる。そこで、ヒトでは腹側頸筋胸鎖乳突筋が特異的に発達している。本課題では、指向運動時の頭部運動に、胸鎖乳突筋がどのように機能しているかをあきらかにすることであった。 被験者:耳鼻科領域で一側胸鎖乳突筋郭清者5名と、正常者5名の協力を得て行った。 方法:暗所下で眼前に設置したLEDを視標とし、まず、正面につくLEDを注視させ、それが消灯したのち、左あるいは右のLEDを点灯させ、それを注視させるように指示し、そのときの眼球運動と頭部運動を解析した。 結果および考察:眼窩内での眼球可動範囲は外側へ50度程度である。それよりも内側に提示したLED(20,40度)に対しては、正常者、郭清者とも主として眼球運動のみで注視することで、正確に視標を捉えることが可能であった。一方、60度LED視標に対しては、正常者では、約40度あまりを頭部運動に依存し注視した。胸鎖乳突筋の収縮は反対側への頭部運動に関与していることを考えると、郭清と同側への頭部運動は正常と変わらないことが予測されたが、一側の郭清でも両側への視標に対し頭部運動は30度程度までと有意に少なく、眼球運動に依存する割合が増大していた。そのため、視線の視標到達時間は50-100msec正常者より遅れていた。以上のことから胸鎖乳突筋は外側への頭部運動に関与するが、特に離心度の大きな周辺視野への注視運動に重要な働きがあるものと考えられた。
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