II-VI族半導体のほとんどは単極性を示し、またド-ピングが可能であってもキャリヤの飽和現象がみられる。これは不純つをド-ピングすることにより結晶欠陥が誘起されるからと考えられている。本研究の目的は、不純物をド-ピングすることにより誘起される結晶欠陥の原子構造を実験的に確定し、単極性あるいはキャリヤの飽和の原因を明らかにすることである。実験手法としては、主としてX線吸収微細構造解析法(EXAFS)を用い、n単極性のZnSe、p単極性のZnTeにCl、あるいはPをド-ピングしこれらドーパント周辺の原子構造に着目した。 ZnSe中のClはSeサイトに入り、4配位構造をとるが、ZnTe中のClはTeサイト位置からずれて入り、1配位的な構造をとることがわかった。また、ZnTe中のClの酸化数はZnSe中のものと同じであることよりChadiらが提案している欠陥モデルとは合わないことがわかった。ZnとClの結合距離はZnCl2のそれとほぼ同じであることから、ZnTe中のClの変移はZnCl2の析出によると推定できる。 単極性の原因として、他のドーパントにも固溶限界説が適用できるかについて検討した。ZnTe中のPは一種類の酸化状態で存在するが、ZnSe中のPは2種類の酸化状態が存在することが明らかとなった。すなわち、Zn3P2のような析出によるキャリヤ補償よりも異なった酸化状態のPによってキャリヤ補償が起こっていると考えられ、キャリヤ補償の機構はただ一種だけでなく系ごとに異なることがわかった。どの系でどのタイプのキャリヤ補償が起こり得るかの統一モデルの構築は今後の課題である。
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