原子サイズ接合部分の量子輸送現象に関する理論的研究

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08650032
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 笠井 秀明 大阪大学, 工学部, 助教授 (00177354)
• 研究分担者: 中西 寛 大阪大学, 工学部, 助手 (40237326)
• キーワード: コンダクタンスの量子化 / STM / 点状接触 / 電子相関 / ハバ-ドモデル / 金属表面

研究概要

STM探針を表面に接触させ、STM探針を引き上げると点状接触領域と呼ばれる原子サイズでくびれた領域が形成される。この領域における電気伝導度は、STM探針を引き上げるにつれて、室温でもステップ状に変化するのが観測される。これは、点状接触領域における電子状態の量子化のためである。また、点状接触領域では、遮蔽効果が効かず、有限温度において電子相関効果が顕著に現れると考えられる。
すなわち、有限温度におけて、フェルミエネルギーよりも高エネルギー側のアップスピン(ダウンスピン)電子と低エネルギー側のダウンスピン(アップスピン)電子の間に、クーロン相互作用による散乱プロセスが生じる。この散乱プロセスは、アップスピンとダウンスピンの電子状態を交換することにより、電子系全体のエネルギーを一定に保ちつつ、電子状態に有限の寿命をもたせ、電気抵抗をもたらすと考えられる。
このような量子効果と電子相関効果を検証するために、点状接触領域を梯子モデルで簡単化し、ハバ-ドハミルトニアンを用いて、有限温度における電気伝導度の数値計算を行った。その結果から、電子伝導度のステップの近傍で、STM探針を引き上げる際に電子伝導度のプラトーにくぼみが現れることを見出した。これは、点状接触領域の形状の変化により系のサブバンド構造が変化し、フェルミエネルギー近傍の電子状態密度が増加するため、先に述べた電子相関効果が顕著に現れた結果と考えられる。

研究成果

• [文献書誌] W.A.Dino: "Combined Effect of Molecular Rotational-and Surface Vibrational-Excitations on the Dissociative Adsorption Dynamics of D_2/Cu(111)." surface Science. 363. 52-61 (1996)
• [文献書誌] H.Kasai: "A Microscopic Theory of Desorption Induced by Electronic Transitions" surface Science. 636. 214-222 (1996)
• [文献書誌] H.Tsuchiura: "Effects of Electronic Excitations on Potential Energy Surfaces : Simple Model Calculations" surface science. 363. 274-280 (1996)
• [文献書誌] H.Nakanishi: "Inelastic Scattering from the Translational Vibration Mode on Molecules Adsorbed on Solid Surfaces" surface Science. 363. 391-396 (1996)
• [文献書誌] H.Kasai: "Conductance Quantization in an Atom-Sized Contact between an STM-tip and a Metal Surface" surface science. 363. 428-433 (1996)
• [文献書誌] A.Okiji: "Proceedings of the International Symposium on Dynamical Quantum Processes on Solid Surfaces" North-Holland (Surf.ace Sci.ence 363), 456 (1996)
• [文献書誌] A.Okiji: "Elementary Processes in Excitations and Reactions on Solid Surfaces" Springer Verlag (Springer Series in Solid-State Sciences 121), 243 (1996)