研究概要 |
金属表面に同じ材質からなるSTM探針を接触させ,ゆっくり引き離すと数原子オーダーの断面を持つ細線構造が形成される.この構造を挟んだ表面-探針間のコンダクタンスは,探針を徐々に引き離す過程でステップ状に変化する.このステップ状の変化は細線部分における電子状態の量子化が原因であり,半導体ヘテロ接合界面に形成される細線部分に比べ遙かに小さな構造ゆえ量子化のエネルギー間隔が大きく,室温でも観測される.しかし,有限温度では電子間クーロン相互作用に起因する電子散乱が生じるため,コンダクタンスの形状(プラトーやステップ)には相互作用の影響が現れるものと考えられる. 昨年度は,梯子状に原子を配した細線の電子状態をハバ-ド・モデルで記述し,有限温度のコンダクタンスを計算した.その結果,コンダクタンスに電子間相互作用に起因する構造を見出した.本年度は,2×3個の原子からなる断面を持つ細線のコンダクタンスを同様の手法で計算した.その結果,サブバンド数が増えた今回の系においても,プラトー領域でのコンダクタンス値は,電子間相互作用を考慮しない場合に予想される値(e^2lhの整数倍)より小さくなることやステップ近傍のプラトーに窪み構造の現れることが分かった.さらに,この窪みは,低温になるほどその幅が狭くなり,量子化されたプラトーをより深くえぐる構造となることが分かった.細線のサブバンドの電子状態は細線方向の一次元性に起因してバンド端で高い状態密度をもつ.このバンド端がフェルミ面と交差する近辺では,効果的にクーロン相互作用によるサブバンド間にまたがる電子散乱が生じる.これが量子化されていたプラトーをも食い尽くす窪み構造の原因である.
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