結晶表面に他の物質を一原子層程度吸着させ焼鈍すると、多くの表面では超構造が形成される。それらの表面を加熱昇温すると、たいていの場合1×1構造の無秩序相へ可逆的に相転移する。Snを吸着したSi(111)表面に形成される(2√3×2√3)R30°構造はそのような相転移を行う表面超構造の一である。相転移中の表面を走査トンネル顕微鏡(STM)でその場観察すると、超構造の秩序相と1×1構造の無秩序相を分ける境界がSTM像中で行ったり来たり激しく揺らぐのが観察される。この揺らぎを反射高速電子回折(RHEED)の超格子反射強度の時間相関測定から調べるのが本研究の目的である。 原子が大きな集団で動くことに起因する遅い揺らぎを調べるのには、RHEED装置の蛍光板上に映った超格子反射斑点をCCDカメラで長時間連続撮影し、tだけ時刻が異なった二つの時刻での斑点強度の積の平均を求めればよい。しかしながら集団が小さくなり、揺らぎが速くなると上記の方法は使えなくなる。このため、我々は蛍光板の前にファラデーカップを用いた検出器を置き、反射強度を直接電流として計測する事にした。 図は測定系の構造図である。回折された電子流を受けるファラデーキャップ(a)の前に直径2mmΦの穴が開いたステンレス板を置き、指定した回折斑点の電子電流だけを測れるようにした。二次電子や散乱電子が側面からファラデーキャップに入り込まないように、穴の所を除いてファラデーキャップの周りをシールド板で囲った。検出器は並進機構(B)と傾斜機構(C)の上に載ったフランジから吊り下げられており、その二つの機構を操作することにより位置決めがなされる。ステンレス板の前面には蛍光材が塗布されており、そこに映った回折図形が位置決めの手助けに使われる。電子電流は高速電流電圧変換増幅器(D)で電圧信号に変換された後、パソコンの拡張スロットに挿入された高速AD変換ボードを使って時間間隔10μ秒の強度データとなる。現在、鏡面反射を用いて装置の調整を行っている。
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