同種粒子からなるクラスターイオン粒子数、クラスター構成粒子間の空間的相関関数、クラスター原子のイオン価数(電荷)の各量とクラスターイオン全体の非弾性エネルギー損失の関係を、炭素クラスターを主眼にして調べた。Cn(n=1〜8)の炭素クラスターは線状構造をとるとし、またC60はサッカーボール状の構造をとるとして、これらが炭素薄膜を通過したと仮定する。このとき、通過粒子は薄膜中での衝突により速度に依存した電荷をもつと考えられが、この研究ではクラスターの構成各原子は島らにより経験的に得られた平衡平均電荷をもつと仮定した。このとき各原子(イオン)間にはクーロン斥力が作用することになるため、イオン間距離が時間の経過とともに増加する。また、ここでは分子動力学によるシミュレーションから薄膜中での滞在時間の関数として各イオン間距離を評価した。 以上のようなモデルでつぎの結論を得た。(1)厚さ250Åの炭素薄膜通過後の線状Cn(n=1-6)クラスターのエネルギー損失ΔE(Cn)のイオン1個あたりの値ΔE(Cn)/nと、同速度での単一イオンのΔE(C)との差D=ΔE(Cn)/n-ΔE(C)を計算した。nの増加とともにDの値が緩やかに増加し、n=6でD=12keV(E=2.275Mev/atomのとき)からD=21keV(E=5.65MeV/atomのとき)を得た。これはBaudinらの実験値の約2倍であるが定性的にはデータの傾向を反映している。(2)厚さ100Åの炭素薄膜通過後のC60クラスターのエネルギー損失ΔE(C60)では、速度がv=3vB(vBはボ-ア速度)までは、D=ΔE(C60)/(60ΔE(C))=1程度であるが、それ以上の速度ではDは1以上で単調増加してクラスター効果が現われることがわかった。
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