クラスターイオンが固体薄膜を通過したときにカイネティック放出による二次電子の収量νを「three step process」に基づいて理論解析し計算コードを開発した。すなわち、(1)クラスターイオンによる固体電子の励起、(2)励起された電子の表面までの伝搬、(3)表面からの脱出、の3つプロセスに分けて考えた。固体電子は、フェルミエネルギーと仕事関数をもつ自由電子ガスとし、(2)のプロセスでは、弾性伝搬と非弾性伝搬があり、それぞれの評価式に現れる励起電子のエネルギー損失や非弾性散乱確率を見積もるのに動的誘電関数が使われた。クラスターイオン入射の特徴は(1)のプロセスに含まれる。自由電子はクラスターイオンとの衝突により、結果としてフェルミ球がシフトして励起電子がつくられるが、その励起確率にクラスター効果が現れる。ここでは、イオンは固体に入射した瞬間にイオン速度で決まる平衡電荷をもつ、各イオンの束縛電子の空間分布を統計的に取り入れてイオンサイズを考慮する、の2点を重視した。作成した計算プログラムでは、クラスター構造は3次元的に取り入れることができる。線状構造をとる炭素クラスター(Cn)イオンが炭素薄膜に入射したときに数値計算した結果、二次電子収量ν(Cn)(n=1〜8)に「クラスター効果」すなわち、R≡ν(Cn)/(n・ν(C))>1が現れることがわかった。νの値はクラスターイオンの非弾性エネルギー損失率と比較した。クーロン爆発の効果やクラスターの配向の効果などは今後に持ち越した。以上の内容は論文作成中である。
|