特発性側彎症の病態は脊柱の特徴的な形態変化として発現することから、その成因を力学的側面から解明しておくことは生理学的成因の解明および治療法の開発を行う上での基礎を与えることになる。本研究では、篠田らおよびDicksonらによって提唱された椎体と周囲組織間の成長速度の不均衡に起因する座屈説に注目し、構造解析の手法を用いた数値シミュレーションによって胸椎型特発性側彎症の力学的成因を解明することを目的とした。胸廓付脊柱有限要素モデルを作成し、胸椎型特発性側彎症の頂椎近傍(T4〜T10)が他の椎体および後方支持組織に増して過成長することを想定した変形解析によって成長期正常児において観察される胸椎前彎の減少変形が得られた。さらに、その変形の増加過程に存在する1〜4次の座屈変形を解析した。その結果、側屈1次、回旋1次、前屈1次、側屈2次(側方彎曲)モードが得られた。4次(側屈2次)モードは臨床結果とよく一致した。これらの結果から、1〜3次モードはすべて上端に向かって変形が単調に増加する変形様式で、適切な姿勢制御によって矯正可能である。しかしながら、4次の側屈2次モードは、胸部に姿勢を制御できる主要な筋が存在しないことから、姿勢制御だけでは矯正不可能であると考えられる。これらの考察から、胸椎型特発性側彎症の力学的成因は胸椎の過成長による側屈2次の座屈現象であるとする仮説を示した。さらに、この座屈が発生するまでの過成長量と座屈モードを評価するために、高精密な有限要素モデルによる非線形解析と力学模型による成長座屈実験を試みた。現在まで、モデルの構築と予備実験を行った。十分な成果は今後の研究によって得られると予想される。
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