切削加工の需要の多い炭素鋼(S35C)の旋削加工を対象に種々の切削条件で切削実験を行い、切削に伴って発生する音響(切削音)を切削工具の近傍に置いた2個の音響センサーおよび比較的遠方(約3m)に置かれた2個の音響センサーで採取し、切削工具の逃げ面摩耗との関係をFFT等の音響分析装置を用いて研究した。その結果、(1)切削音は主として、切削工具のシャンクの共振周波数付近に強いピークを持ち、そのピークのラウドネスは工具の逃げ面摩耗の増加に伴って漸増する。(2)ピークの周波数は逆に摩耗の増加に伴い、若干、減少する。(3)したがって、感覚的には摩耗に伴って、周波数が増加するように感じられる。これは熟練技能者が体験していることと一致する。(4)周波数の低下に伴い、切削音の高次高調波の発生が認められる。(5)よって、切削音を監視することにより、工具摩耗の推測が可能であり、この時、監視対象は切削音のピーク周波数、ピークのラウドネス、高調波歪率の何れでも可能性がある。なお、本実験では工作機械の歯車音、軸受音などの一般的な機械音のスベクトルは2〜3kHzまでにあり、これに対し、工具の共振周波数はかなり高い(5〜6kHz以上)ので両者の分離は比較的容易であった。 しかし、実際の加工工場を想定すると、同種の工作機械が多数同時に運用されるので、複数の切削音の音源があり、これを分離する必要がある。このため7個の音響センサーを組み合わせたセンサーアレイを試み良好な結果を得ている。今後はセンサー間の最適な重み付け関数やセンサー数についても検討する。
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