研究概要 |
本研究は,ナノメータレベルの材料除去加工におけるマイクロトライボロジー現象の物理モデルを構築し,分子動力学法を適用して現象を解明することを目的としている.原子論的アプローチによって,表面および界面での弾塑性変形,破壊,化学反応をともなう摩擦・摩耗および潤滑のダイナミックな現象を扱っている.2年計画の初年度は,以下の3項目について検討した. (1)不完全結晶に対する機械的マイクロマシニング 完全結晶ではなく格子欠陥や結晶粒界を含む実在材料,および一度切削して欠陥が導入された材料を再切削する場合のナノ切削機構を検討した.いずれも銅をダイヤモンド工具で二次元切削する場合を想定し,切りくず生成,切削抵抗,仕上げ面性状や最小切取り厚さに及ぼす工具-被削材間の摩擦や工具摩耗の影響を明らかにした.結論としては,結晶を完全結晶に近づけ,かつできるだけ鋭利な工具を用いることが良好な加工面を得るための必須条件である. (2)気泡模型によるマイクロマシニングの可視化 気泡の並びを原子配列にみたてた気泡模型切削実験装置を開発し,原子レベルの切削シミュレーション実験を行った.切削条件や工具形状,結晶の不完全性が切りくず生成や仕上げ面創成に及ぼす影響を検討し,転位の増殖,伝播を主体とするナノ切削機構を可視化した.また現象的には分子動力学シミュレーション結果とも一致した.気泡間および気泡と工具間のポテンシャルが決定できれば,さらに定量的な比較が行える. (3)機械的マイクロマシニングの3次元への拡張 より実際的な3次元の機械的マイクロマシニング現象をシミュレートするために,2次元モデルを拡張した解析プログラムを作成するとともに,グラフィックス表示法も開発した.工具切れ刃によって一旦は除去された被削材原子が加工面に再堆積する現象や,工具の摩耗原子が表面に再付着する過程が明らかになった.シミュレーションプログラムの開発と実行は,東大大型計算機センターのス-パコンピュータを用いて効率よく行えた.次年度はプログラムをさらに改良して,ワークステーションに移植する予定である.
|