研究概要 |
成層圏のオゾン層破壊の元凶として,塩素を分子構成要素とするフロンガスの使用は国際的に全面使用禁止となり,自動車用クーラーの冷媒には,塩素を含まないHFC-134aが主に用いられている.HFC-134aへの変換にあたり,トライボロジカルな課題は,摺動面に錫メッキを施す,潤滑剤にリン酸エステルを加える等で解決してきた.しかし,それらは場当たり的な対策が主で,将来の規制に対処するにはその役割を十分に理解する必要がある. 本研究では,実用のコンプレッサー摺動部が置かれる環境や作動条件を再現し,そこで発生するトライボロジー現象を詳細に観察する実験装置を試作した.実験装置本体はステンレス製,直径400mmの真空・耐圧チャンバーの中に、高速,高荷重のピンオンディスク摩擦試験装置を配置した.回転動力は高出力可変速ACサーボモータの出力を磁性流体シールカップリングを介して導入した.押しつけ荷重は,真空ベローズで気密性を持ち,高い剛性が得られるてこ式の機構で与えられる.真空ポンプは油回転ポンプと油拡散ポンプを組み合わせ,将来的には分子ターボポンプの増設も可能な構造とした. 厳しい作動条件を想定し,大気,塩素を含むR-12,HFC-134aの環境下で摩擦実験を行った.潤滑剤を,添加剤を含まないタービン油とした場合,アルミ合金ディスクの摩耗量は,大気,HFC-134a,R-12の順に少なくなった.実験後の摩擦面を分析した結果,HFC-134aではフッ素,R-12では塩素とフッ素が多量に検出され,金属との反応生成物が摩擦を減少させていることがわかった.リン酸エステルを添加剤として加えた潤滑剤では,さらに摩耗量は減少し,極圧添加剤としての燐の役割が明確となった.
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